しつけ(躾)について (1981年)

躾は大きくなってからでは遅い。

最近、校内暴力、家庭内暴力、小学生の非行など、新聞に載らない日の方が少い位であり、小学高学年から中学生位の子供を持つ親達は、常に心配が絶えません。

また、それ程大騒ぎするような事でなくても、家庭内での躾の教育についての悩み事は実に多い。幼児をもつ家庭ではまだ子供が小さいから、それ程関心を持たないであろうが、ここで問題にしたいのは子供達が大きくなって親に従わなくなってから気付いて、こうしておけばよかったと悔んでも、時既に遅しという事を訴えたいのです。

そこで提唱したいのは、子供が幼稚園に進む頃には、躾について徹底して教え込むチャンスであり、タイミングとしてもこの頃が一番適しているからです。

よく何の不自由もない中流家庭で、何故そのようなトラブルが生ずるのであろうか?とマスコミで話題になることがあります。

しかし、そのような家庭でこそ、子供が大きくなってトラブルが出始め、手に負えなくなるのは、次のようなメカニズムから、発生するケースが多いように聞いています。

父親は一生懸命勤め先で精一杯働き、家へ帰っても余り子供に関心を示さず、母親は新築した住宅ローンの返済の為、外ヘ出て働き、両親とも子供に接する時間が少ない場合であります。

このように子供に対する手抜きがあると、どうしても子供を甘やかし、その言いなりになったりして、がまんさせることを忘れてしまいます。

また、子供に接している間だけでも、せめて子供の面倒を見ようとして干渉しすぎたり、過保護になってしまいます。こういう習慣が長く続くと子供の躾はできず、その将来の為にも心配であります。

しかし子供の躾について、両親がその方法とタイミングについて、正しい理解を持っていれぱこそ、それ程心配しなくても良いのです。

子供の躾は小さいうちに

 今さら欧米人を、引き合いに出すのもどうかと思いますが、子供の躾については、我々よりも数段上のようです。

日本の子供達は電車などに乗る場合、よく見かけるのはドタバタと我先に大人をかき分けて座席を占領し、また親がそれを涼しい顔で利用したりします。

あるいは電車の中を我が物顔に駆け足をします。しかし欧米人の子供の場合は、お客や他人がそこに居れば、自分から席をゆずり大人しく親の側に立っています。

また仮りにエチケットに反したり、我がままを言ったりすると、公衆の面前で親からピシャとやられてしまう。

カオル幼稚園では、この躾について"他人に迷惑をかけない"という点も併せて、日常の生活指導の重点にとりあげているのです。躾の問題は、家庭が中心になって行うのは当然でありますが、幼稚園と家庭が共通意識のもとに実践するのが大切であります。特に幼稚園時代は、躾を教え込む上で最も重要な時期と考えますので、家庭でも最重点にとりあげてほしいものです。さらに幼稚園では集団生活が基本ですので、それに必要なルールやマナーの点でも躾は重要な位置づけとなります。

特に
  1) お互いにゆずり合いの心
  2) 皆が共同で使う物を大事にする心
  3) 感謝の心
  4) 他人を思いやる心
などを大切に育てて行きたいと努力しています。

しかし乍ら、このような躾ばかりでなく、幼児期には子供の情操面を培うことが、大切なポイントにもなっているので、絵画、音楽、造形、飼育栽培などの指導、及び体育指導などを併せ行うことにより、やさしい心の中にも強くたくましい精神力、我慢する心、勇気、積極性などを兼ね備えるようにつとめています。

特に自然に囲まれた環境をフルに活用して、園児の情操面及び運動の指導などに効果をあげつつあります。

親も先生も子も共に学ぶ

 "子供は親の鏡''とか"子供は親の姿を見て育つ"とも言われる。

子供を幼稚園に預けっ放しでなく、両親も躾について経験者の話や、専門家の意見などを学びとり、口先で注意するより、子供と共に実践することが、最善の指導です。

前述のように躾の教育時期を逸しては問に合わない。

こうした二一ズに合わせて、カオル幼稚園では躾についての講演会、園だより、家庭教育学級などを通じて、具体的に両親にも学んで頂くように計画をしています。

また幼稚園の先生方も自らの専門知識や技術及び教養を高め、よい教師を目指して研修を重ねています。

以上、カオル幼稚園が現在取り組んでいる一部を紹介しましたが、環境は日々新しく変化しています。

そのような中で、子供の将来の為に、園と家庭が子供を中心として結び合い、物質的な豊かさから精神的な豊かさへ価値観を転換して、子供達の幸福により、よい教育を考えていきましょう。これからの時代は内面を充実させて行く質(Quality)の時代と考えるのです。

バックナンバー
創刊号 カオル幼稚園はこのように考える。(1979年)
2 カオル幼稚園はこのように考える。(1980年)
3 躾について (1981年)
5 21世紀を担う子供たちに明るい社会を (1983年)
9 この10年を顧みて (1987年)
10 子供の将来には無限の危険性も (1988年)
11 家庭での子供達の生活空間を考える (1989年)
12 玩具あれこれ (1990年)
13 子供の食習慣と栄養 (1991年)
15 子供達の自主性を育てよう (1993年)
16 やり直しがきかない子育て (1994年)
17 感性をはぐくむ (1995年)
18 遊びについて (1996年)
19 自然に遊ぶ、大地に学ぶ (1997年)
20 父親に期待される子育て (1998年)
21 女性の社会進出と子育て支援 (1999年)
22 思いやりの心を育む (2000年)
23 これからのエリート教育 (2001年)
24 子育て環境は8歳までが勝負 (2002年)
25 メディア漬けから子供たちを守ろう (2003年)
26 これからの子育て支援 (2004年)
27 ことばの教育 (2005年)
28 食育について考える (2006年)
29 真っ当な人間に育てる (2007年)
30 創立30周年にあたって (2008年)
31 「自然」は最良の教師 (2009年)
32 本を読む習慣を付けよう (2010年)
33 群れ遊びについて考える (2011年)
34 こどもには沢山の体験を (2012年)
35 美徳を取り戻そう (2013年)
36 国際化とこども教育 (2014年)
37 子ども・子育て新制度を考える (2015年)
38 リーダーを育てる (2016年)
39 データから見た幼児教育の重要性 (2017年)
40 人工知能時代を生き抜くこども達 (2018年)
41 これから世界的に活躍出来る人に (2019年)
42 カオル幼保グループの考え方 (2020年)
43 緊急事態宣言下に考える (2021年)