21世紀を担う子供達に明るい社会を(良いものは残してあげたい) (1983年)

「人間の社会は次の代に一生懸命、庶民の生活文化を遺産として、継続的に引渡しているようなものだ。それは私達の生活の中に流れる習慣とでも言おうか。」

 しかし最近、私達の身の回りで起きる諸々の事柄が、余りにも大きく変って行くので、自分の身の処し方だけで、精一杯という方が多いのではないかと思います。

 従って、ここでとり上げようとする、21世紀を担う子供達と言われても、仲々ピンと来ない方もいらっしゃるかと思います。しかし、良いものは、次の代に大切に残してあげたいと思うのでここに記してみました。

 21世紀はもうすぐそこだ。今の子供達が青年になり、社会で活躍する頃には西暦2000年になる。その頃、今のお父さんやお母さんは、いわゆる熟年という年頃になっているでしょう。

子供達は、それ迄の10数年間、お父さんやお母さんの姿を毎日見ながら育って行く。やがては社会を背負って行く中心人物になって行く。しかも意外とそのような年令になるのは早いものです。

 子供達が小さい頃から家庭の中で、少しづつ両親から受ける影響力というものは、長い間の積み重ねから来るものだけに、両親の立ち振舞、物の考え方などは大変大きいのです 。

従って、今回は自然のうちに子供達は何を見て育つか、最近の話題中心に述べて見たいと思います。とりあげる内容は良いマナーを親がして見せる事、遊びを教えてあげる事、節約する事を中心に記してみました。

良いマナーを親がして見せよう。

最近、こんなことを聞きます。スイスのアルプスでは、日本人観光客が入って来るのを、大変嫌っているそうであります。

非常にマナーが悪く、他の観光客に迷惑だということであるということです。他の国際観光地でも同じようなクレームを良く耳にします。

また、この間の台風の時、山梨県の小さな駅で列車が動けなくなった時の事。何時間もストップした為、駅員が総出で町中から弁当を買い集め、乗客に無料で配ったのです。

ところが、全員には行き渡らなかった。さて、もらえなかった乗客は駅員に喰ってかったりして、騒然となった一幕があったということです。もちろん、弁当をもらった乗客はどんな顔をして召し上ったかは想像して下さい。

もし、あなただったら、この場合どうしますか。こ家族で話合ってみてはいかがですか。多分、すばらしい答が出る事でしょう。

しかし、このような場合、その場に居る多勢の人から、吐嵯(とっさ)に良いアイデアが出て、すぐ納得されないと意味ないですね。一部の人は、お弁当に手をつけてしまいますから。

最近の企業内教育では意外にもマナーとかエチケットが重視されているようである。

例えば、朝会ったら「おはよう」とあいさつしようとか、芝生には入らないようにとか。何か幼稚園の教育に似ている。

何故、こんなことまで企業で教えなけれぱならないのでしようか。

日本中、物が豊富に出回わり、お金さえあれば何でも揃うという時代が続きました。

その為、金貨し産業が大発展した。そうこうしている間に、皆が何か多くの忘れ物をして来てしまったのではないだろうか 。

物が無ければ少い物で工夫するとか、お互いに協力し合うとか、周りの人への思いやりとか、いつの間にか消え去ろうとしているような気がしてなりません。

残ったものはギスギスした心だけか。これからの時代、子供達に対しても種々の面で、大人達が工夫したり、困っている人を助けたり、他人に迷惑をかけないなど、大人が率先して子供達にして見せる必要があります。

私達が持っている良い面は、しっかりと子供達に実践によって植えつけてあげたい。

よい遊びを教えてあげよう。

 最近のおもちゃは非常によく出来ていて、ひとりで長時間近んでも飽きない。しかし高価であります。

そのかわり大人でも欲しくなるようなものが多い。電子ゲーム機などその好例です。おもちゃを製造する方も大変儲かるでしょう。

しかし、それで良いのでしょうか。おもちゃは元来、子供達の教育の道具としてすぱらしい機能を発揮してきました。それが今はすっかり忘れられてしまったのです。

忘れられたというより、メーカーが儲からないから作らないのでしょう。おもちゃの社会的責任を問いたい。

遊びは、元来、その辺のガラクタでもよいし、庭や道端に生えている雑草、あるいは何も無くても出来ます。単純な遊び道具ほど子供達の創造力をかき立て、或は多勢の子供達が協力し合って遊べるので、社会性を育むよい機会を作るものです。

この際、是非、お父さんお母さん方が、小さい頃遊んだ遊び方を沢山教えてあげて欲しい。それには、お父さんやお母さん方も極力外に出て、たまには密着サービスで近所の子供さん達といっしょに遊んであげてください。

節約の習慣

喉もと過れぱということで、私達もいつの間にか、あの石油ショックのことを忘れてしまい、何でも手に入ると思い勝ちです。

しかし、国際紛争は絶え間なく、いつ、この前のような混乱が訪れるかわりません。その時にあわてないように常に物を大切に、特にエネルギー(電気、ガソリン、灯油など〕資源を大切にする心がまえを、子供達に植えけて行きたいものです。

というのは何といっても、吾々の生活の根底を支えているものはエネルギーだし、国際紛争でもエネルギー間題が、しょっちゅう顔を出して来るからだ。

以上、最近思い当たる点について、子供さんの教育上、家庭でもこれから、お父さんお母さん方に簡単に出来る事をとり上げて見ました。

幼稚園にお子様が入園する頃は、お父さん、お母さんのしぐさを見て育ちます。

是非、よいお手本を園と一緒に考えて行きたいと思います。

◎先にとりあげた駅弁の問題の一つの答:少ないお弁当を皆で分け合って喰べたらいかがですか。この答えがすぐ出ないと他の人が手をつけてしまいますので分けられません。物の少ない時代にはこの答は当然すぐ出て来ます。

バックナンバー
創刊号 カオル幼稚園はこのように考える。(1979年)
2 カオル幼稚園はこのように考える。(1980年)
3 躾について (1981年)
5 21世紀を担う子供たちに明るい社会を (1983年)
9 この10年を顧みて (1987年)
10 子供の将来には無限の危険性も (1988年)
11 家庭での子供達の生活空間を考える (1989年)
12 玩具あれこれ (1990年)
13 子供の食習慣と栄養 (1991年)
15 子供達の自主性を育てよう (1993年)
16 やり直しがきかない子育て (1994年)
17 感性をはぐくむ (1995年)
18 遊びについて (1996年)
19 自然に遊ぶ、大地に学ぶ (1997年)
20 父親に期待される子育て (1998年)
21 女性の社会進出と子育て支援 (1999年)
22 思いやりの心を育む (2000年)
23 これからのエリート教育 (2001年)
24 子育て環境は8歳までが勝負 (2002年)
25 メディア漬けから子供たちを守ろう (2003年)
26 これからの子育て支援 (2004年)
27 ことばの教育 (2005年)
28 食育について考える (2006年)
29 真っ当な人間に育てる (2007年)
30 創立30周年にあたって (2008年)
31 「自然」は最良の教師 (2009年)
32 本を読む習慣を付けよう (2010年)
33 群れ遊びについて考える (2011年)
34 こどもには沢山の体験を (2012年)
35 美徳を取り戻そう (2013年)
36 国際化とこども教育 (2014年)
37 子ども・子育て新制度を考える (2015年)
38 リーダーを育てる (2016年)
39 データから見た幼児教育の重要性 (2017年)
40 人工知能時代を生き抜くこども達 (2018年)
41 これから世界的に活躍出来る人に (2019年)
42 カオル幼保グループの考え方 (2020年)
43 緊急事態宣言下に考える (2021年)