子育て環境は8才までが勝負 (2002年)
子どもをめぐる環境
現在の子どもを取り巻く環境というのは、生物学的にいって大きく変わり過ぎてしまった。つまり、「普通の環境」で子供を育てられなくなっている。人類誕生から数百万年も続けられてきた子どもの成長に必要な環境が失われていることが、現在の子どもをめぐる問題の原因ではないかと思われる。霊長類である生き物として子どもが、どんな環境で育つべきなのかを知って置かないと、今後はもっと大変なことになる。そこで最新の脳科学の先生のお話などから、子育て環境について考えてみたい。
前頭連合野を育てることで人間の知性は発達する
21世紀は「脳の時代」と云われている。ご存知の通り、人間の脳の中でもっとも高度な機能を担っているのは「前頭連合野」である。たとえば野球の監督が相手チームやゲームの流れを予測し、選手起用をどうするかなどを判断する役割を持っている所である。そこを育てることが一番重要なのである。つまり、言語的知性、論理数学的知性、絵画的知性、音楽的知性など、人間のさまざまな基本的な知性を統合する機能をもつ部位である。
この前頭連合野をうまく動かす教育は単純ではあるが「遊ばせる」ことだそうだ。即ち、多様な社会的関係なり体験をするための機会を与えること、しかも 脳が最もドラスティックに変化する感受性期、つまり8才位までにやるべきことをやっておかなければならない。生まれてからの家族との関係・子ども同士が遊びまわる環境・そして友達との濃い人間関係が存在すること、つまりいじめやケンカ・いざこざ・取っ組み合いといった一見ネガティブな関係と仲良く助け合ったり、協力し合ったり、喜び悲しみあったりといったポジティブな関係が入り交じるなど、複雑な社会関係がなければ意味がない。体と体で触れ合いながら育まれていく濃い人間関係等が必要なのだそうである。
セオリー・オブ・マインド
セオリー・オブ・マインド(心の理論)=人の身振りを見て心を推測できる能力のことで、いちいち分析しなくても相手の心を洞察できる、これが前頭連合野の働きであることが最近になって分かってきた。そしてセオリー・オブ・マインドができてくるのが3、4才で実際の豊富な体験のなかでしか育たない力である。この力が十分に育っていないと思春期を迎えたときに、相手がどう思うかわからないから立派な社会人となっても、平気で人をたたいたり、いじめたり、罪を犯したり、ついには殺人までする。
もともと人は言葉の能力と同じようにセオリー・オブ・マインドのための能力を持っているが、言葉の環境に曝されなけば、言葉をうまく話せないのと同じように、幼児期にそれを伸ばす環境や、きっかけを欠いてしまっては、この能力の発達は不完全で未熟に終わってしまう。
風の吹き渡る音を聴くことも、花々や虫たちの営みに目を見張ることも、そして自然の脅威におののくことも大切なことである。幼児期の教育環境の重要性を痛感するものである。
参考資料: 「幼児教育と脳」澤口俊之著(文春新書)、「育つ育てるふれあいの子育て」小林登著(風藩社)